私たちの目指すもの
絵本のすすめ
文化としての絵本
次世代への継承
空とこども絵本館は、松居直氏から二度にわたって蔵書の寄贈を受けました。
「こどものとも」の初版本や作家のサイン本、外国の絵本など、氏が手がけてきた絵本をはじめ、『トルストイ全集』や『折口信夫全集』 『柳田國男全集』など、青年時代の松居氏に強い影響を与え、氏の絵本作りの基盤となった書籍も多く含まれています。
これらの寄贈の整理にあたり、松居直コレクションプロジェクトでは、以下の3点を目標に掲げました。
1 絵本の楽しさを伝える 【親子読書の奨励】
2 絵本の歴史を学び、進むべき方向を考える 【絵本文化の研究】
3 市が所有する知的財産として、次世代に正しく伝える 【絵本文化の継承】
この目標に基づき、コレクションプロジェクトは活動を始めています。
今後は展示や講演会の開催など、さまざまな角度から絵本について考える機会を作っていきたいと考えています。
絵本のすすめ
絵本は子どもが読むものではない、大人が子どもに「読んでやる」ものだ…。
これは、松居先生が折にふれておっしゃる言葉です。深い愛情や思いやりに裏打ちされた絵本の言葉が、優しい声で語りかけられ、子どもたちの心に沁みていく。耳で聞いた言葉を、これも松居先生の言をお借りするなら「食べる」ことで、子どもたちは真の豊かな言葉、豊かな感性を身につけていきます。
子どもたちを膝に抱き、ゆっくりと絵本のページをめくるひとときは、大人にとっても豊かな時間です。絵を楽しみ、言葉を楽しんで過ごしていただきたいと思います。
文化としての絵本
むかしばなしや民話には、私たちの先祖が長い時間をかけて積み上げてきた知恵がこめられています。それは、私たちの暮らしの中に息づき、文化の底流となって現代につながっている知恵です。
「日本の絵本のルーツは、絵巻物にある」と松居先生はおっしゃいました。そうした観点から考えると、人類の知恵の堆積ともいうべきむかしばなしや民話などの物語を、絵巻物の形で表現する絵本は、文化の基盤をなすものと言えるではないでしょうか。
次世代につなぐ絵本
絵本は、子どものときに読んでもらってそれで終わり、というものではありません。
一度目は、子どものとき。大人に読んでもらう。
二度目は、大人になって。自分の子どもに読んでやる。
三度目は、年をとってから。自分のために読み返す。
これは、柳田邦男さんがいつもおっしゃっていることです。確かに、絵本は卒業するものではないのです。
選び抜かれた言葉で書かれた文章を読み、豊かな想像をかきたてる絵を味わうひとときを、大人になっても持ち続けていただきたい。そんな深い喜びを感じさせてくれる絵本を、これからも大切にしていきたい。それが、松居先生にお会いすることができた私たちの願いです。
2021年度は「センス・オブ・ワンダー」
3つの目指すものを進めるために、以下の5つをテーマとし、2021年度から5年間かけて活動していきたいと考えています。
最初の年度の活動目標は「センス・オブ・ワンダー」です。
活動の5つのテーマ
センス・オブ・ワンダー
ことばと生きる
ことばを食べよう
音読のすすめ
絵を読もう
松居 直先生のことば
松居先生との交流で語られた、大切にしたいことばをご紹介します。
「子どもの幸せは、お母さんが幸せかどうかによって決まります。そのためにも、まずお母さんが幸せでなくては。
この絵本館は、きっといい絵本館になりますよ。みんなで日本一、アジア一の絵本館にしましょう」
<2006年2月 初めての来松の折、工事中の絵本館を見て>
「私の家は、近江商人の家系です。家には『三方よし』の訓えがありました。売り手良し、買い手良し、世間良し。この訓えが、私の絵本出版の基本姿勢となっています」
<2006年7月 絵本館開館の折、スタッフとの談話の中で>
「堀内誠一さんの絵は、いろいろ変化します。一作一作画風が変わるんです。それでいいんです、物語が変わるんですから。堀内さんは、物語の内容に合った絵を描くことができる稀有な画家だったのです」
<2007年7月 開館1周年記念原画展での講演>
「京都には『ほんまもん』という言葉があります。私は、小さいころから父に連れられて、いろいろな展覧会を見に行きました。上村松園、竹内栖鳳さんの名前も、そのときに教えてもらいました。『ほんまもん』に接してきたことが、私の幸せだったと思っています」
<2008年7月スタッフとの質疑応答の中で>
「日本の文化は『余白』の文化です。何も描かれていないところに、幾重にも思いをこめる文化です。文章でいうなら、行間ですね。そうしたところから生まれる『余韻』が大切なんです」
<2009年10月 来館の折の談話>
「子どもは言葉を食べて成長します。子どもの言葉が豊かになるのは、家庭での言葉が豊かであるかどうかにかかってきます。耳で聞く言葉が豊かであるというのは、何より大切なことです」
「小松へ来ると、田んぼの緑の美しさに打たれます。小さな苗が、だんだん大きくなって、深い緑に変わっていく。風が吹くと、その緑が揺れて陰影をもたらします。本当に、すばらしい緑ですね」
<2008年7月 お迎えの車の中で>
「小松の自然、景色は見事ですね。こういう景色を目にすることができる子どもたちは、幸せですよ」
<2015年5月 「夢の本棚」記念植樹の折に>
「地方のことばを大切にすることが、その土地の文化を豊かにするんです。豊かなことばで語りかけられることによって、自然にそのことが身についていく。それが大事だと思いますね」
<2013年8月 絵本館制作絵本のおひろめ会で>